ストーリー
Side ―委員長―
最初はかっこいいなぁって、遠くから眺めてそう思えた人だった。
木島 蓮くん。身長は高くて、スタイルもよくて、女の子の中では少し有名な人。きちんと話をしたのは、木島くんが空から降ってきたとき。
「アイ・キャン・フライ!」
「飛べるだろうけどヤバイって、下に人が――」
嬉しそうな声と、あせった声が両方聞こえて、見上げると誰かがこちらに落ちてきているのが見えた。それは見間違いじゃなくて、落ちてきているのは木島くんで、あのときは木島くんの背中には翼があるんじゃないかって、本気で考えた。
だって翼があったら空も飛べるから。
近くで顔を見て、声を聞いて、息がとまるかと……や、あのときは息とまってたよ、うん。
で、わたしのメガネが壊れて、直せそうにないほどに壊れて、怒り狂った亜子ちゃんのこともあり、木島くんがわたしを家まで送ってくれることになった。
初対面の人に送ってもらうことに申し訳ない気持ちでいっぱいで、自転車もこぎにくそうにしてる。
「木島くん、わたし、降りるよ」
坂道だし、降りればこぎやすくなるはず。
でも木島くんはペダルを踏むだけで、とまる気配をみせない。
「乗ってろ、大丈夫!」
「重いから」
「重く、ない!」
「でも、しんどそうだし、汗だって」
わたしが重いからしんどいんだ。
昔、男の子にデブ! て言われたことあるし。
だから――
「委員長!」
「はっ、はい!」
「しっかり捕まって。下るぞ」
嬉しそうな声が耳に届いて、風が頬に当たる。
上り坂が終わったんだ。下り坂をタイヤが回る音が聞こえる。
太陽が暖かくて、周囲のざわめきが新鮮で、目の前に木島くんがいるのが信じられなくて、自転車を降りるなって言ってくれたことがとても、嬉しかった。
ジョンが壊れていてよかったと思う。だってもしきちんと見えてたら、逃げ出してたよ。